人権剥奪期間
そのまま向かったのはひと気のない渡り廊下だった。


部室棟へと続くこの廊下を使う生徒は、今の時間はいない。


「それ、どうしたの?」


早足で移動してきて、少し息を切らしながらあたしは聞いた。


「べ、べつになんでもないよ。これはその、怪我しただけだから」


そう言う聡介の笑顔は引きつっているし、顔色も悪いままだ。


「本当に怪我なの?」


真剣な表情で聞くと、聡介の笑顔は見る見るうちに消え去っていった。


そしてうなだれる。


「ごめん恵美。俺……」


そこまで言って口を閉じ、絆創膏に手をかける。


ゆっくりとはがされていく絆創膏にあたしはゴクリと唾を飲み込んだ。


120.


聡介の頬に書かれている簡素な数字に呼吸が止まりそうになった。


「それって……」


そっと手を伸ばして数字に触れてみると、やはり内側に硬い感触があった。


あたしの数字と同じだ!


理解した瞬間、大きな爆弾を落とされたような気がした。


胸の中に鉛が転がっているような感覚もある。


とにかく全身が重たく、けだるく、そして鬱が蓄積していく。


「商品番号」


聡介の口から直接そう言われた瞬間、また涙が滲んできた。


車の中で散々ないたのだけれど、それじゃちっとも涙は減っていなかったみたいだ。


聡介の顔を見ていることができなくて、あたしはうつむいた。


そして肩を震わせる。
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