セフレのテラダ
なんだかんだ3時間過ごして店を出た。

朝の土砂降りはすっかり止んでいたけど、まだ地面は濡れて街の光を反射する。

土曜ということもあって人が多い。

地下鉄の駅まで来た。

「じゃ、また」

私が笑顔を作ってそう言った時、奥野さんが「あの」と言って私を呼び止める。
驚いて振り返る。

「家まで送ってってもいいかな。」

どうしよう。

前野さんの真剣な目。
少しだけどこか泳いでるように見える。

どうしよう。

そう、迷ってると前野さんが勝手に私の前を歩き出した。

「もう少し、玉山さんと話したいんで。」

目を合わせずにそう言う。

そんな強引な前野さんを初めて見る。
私は断ることもできなくて、少し前を行く前野さんの後を歩く。

家の前で必ず分かれないと。
家の前には絶対何がなんでも入れないようにしよう。

地下鉄の中で、私は静かにそう決心していた。

前野さんとはまだ、前には進むことはできない。

隣に座る前野さんに、触れないようにしてる私がいた。
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