セフレのテラダ
「玉山さんは今26だよね?」
「はい。」
「結婚とか考えたりする?」

唐突に聞かれて言葉に詰まる。

「ちょっとは、そうですね。」

そう答えると、前野さんは一口ビールを飲んだ。

少しの沈黙。

「全国転勤って大丈夫?」
「え?」

ほんの少しの間。

なんて返そう。
少しだけ悩んだ。

「本当に好きな人なら気にしないですかね。」

私は曖昧にそう答えた。

前野さんは「そうか。」と言う。

「前野さんは次転勤の予定あるんですか?」
「ああ、うん、今年ありそうなんだよね。」

今年。

前野さんが東京を去って、追いかける私はいる?

地方に会いに行くことなんてある?

この人と遠距離恋愛できる?

「へえ」と言いながら、美味しそうな串焼きに手を伸ばす。

たぶん、31歳。
東京で出会いを見つけて、できれば結婚したいはずだ。

ジリジリと伝わってくる前野さんの気持ち。

「どこらへん、とかもう決まってるんですか?」
「希望は大阪で出してるんだけどね」
「いいですねえ」

適当に会話を繋げる。

「玉山さんは地元こっちなの?」
「千葉なんですよ」
「そっかあ、じゃあ東京から離れられないかな」

少しだけ、前野さんも品定めをしてるんだろうか。

丁度いい相手を探してるんだろう。

私は前野さんと前に進んで、テラダとの関係を終わらせるという目標がある。

そのつもりだったのに、いざ前野さんと話してると全然進みそうにない。

そんな自分の気持ちが嫌なほど分かる。

「好きな人と一緒ならどこに住んでも楽しいんだろうな」

つい口から溢れた。

「いいなあ、なんかそういう気持ち、すっかり忘れるよね。同年代の子たち見てると、仕事辞めるリスクを取れないだろうなって思ってしまう。」

前野さんはしみじみと言う。

前野さんは前野さんでいろんなこと考えてきたはずだ。

結婚しててもおかしくはない。

恋愛は難しい。

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