白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
 石鹸があるだけ、マシなのかもしれない。よくある現代知識でチートする悪役令嬢物語だと、自分で石鹸やシャンプー等々作っていたりする。

 てか、そこでちょっと自分の立場に置き換えてほしい。

 普通、石鹸とかシャンプーの作り方って知らなくない? 転生する人たちみんな博識すぎるだろう? なんていつもツッコんでいただけで、その技法なんて「チート知識オツ」と読み飛ばしていたあの頃の自分を、今は恨みたい。

「はい……失礼ですが、エドワート様の肌は最悪すぎです。そんなギトギトボコボコの肌を、いつも見せられる方の身にもなって下さい」

「……うううう、うん。リイナの毒舌にも、なな、慣れてきたからね。大丈夫だよ。むしろ悪い所を指摘してくれてありがとう」

「礼には及びません」

 気にしない。私は気丈な御令嬢なんだ。プスッと小さく返ってきた嫌味なんて気にしないぞ~!

「じゃあ、キスしてくれる?」

「ふぇ?」

 反射的に情けない声が出てしまった気がするが、我に返ると自分のいる場所に影が出来ていた。いつの間にか、ついたての向こうに人がいたらしく、その人がついたてに手を置く。

「最近入れた見習いコックも、同じように色んな油がほしいと言っていてね。その中で良さげなのを見繕ってくるよ。どんなのがいいのかな? 果物系とか?」

 シルエットの王子は、やはり全体的に丸くて、歪んでて。それでもいつになく饒舌で、どこか囁くように言われると、浴室特有の響きゆえか、ちょっとゾクゾクくるものがあって。

「えーっと……温かい地方のナッツ系とか?」

 この世界にココナッツがあるか確かめていないものの、ナッツなら王子にもらったお菓子に入っていたし、言語も共通と確認済み。それにココナッツの油はどこぞのセレブも愛用とかって雑誌に書いてあった気がするし。私は使ったことないけどね。あくまで雑誌のうろ覚え情報。

 まぁ、とりあえずこのまま話が逸れてくれることを願いつつ、とっさに私が応えると、ついたての向こうからは「グフグフ」とした笑い声が聞こえた。

「わかった。じゃあ、早めに用意するね。リ、リイナとキキ、キッス出来る日が待ち遠しいなぁ」

 あーあ。これが「クスクス」とした笑い声なら、少しはドキドキできるのになぁ。


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