白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
「では、お借りしても?」

「えぇ、リイナを宜しくお願いします。殿下」

 そこに、私の意思はない。

 視線で「頑張れ」とエールを送られつつ、私はエドに誘導されるがまま、会場の中心へと移動させられる。

 その間も、いつも以上に興奮した様子のエドの声は大きかった。

「わざわざ僕のために来てくれてありがとうね、リイナ。本当に綺麗だ。僕はこのリイナを見るために生まれてきたんだね!」

「さっきから大袈裟です……」

 ほらぁ、こっち見て来る女の人たちの視線が痛いー。私なんかよりも綺麗な人なんて山程いるじゃんか。
 
 そんな私に気がついてか……エドが耳打ちしてきた。

「ねぇ、僕。なんかモテてるみたいだよ。みんなが見違えたって。色目使ってくる令嬢がいっぱいいるんだ。逆に子爵たちはあからさまに嫉妬してくるよ。もちろん、表向きは『健康的になりましたね~』とか褒めてくるんだけどさ。もう嫌味や僻みが隠しきれてないの」

「……そうみたいですね」

 ひと目で気が付きましたよ。自慢ですか? 嬉しそうでなによりです。
 私自身、自分がどんな顔をしているかわからなかった。
 だけど、エドは私を見てニヤニヤとご満悦を隠さない。

「リイナのおかげだね」

「喜んでもらえて何よりです」

「でもリイナが不満なら、僕はまた太ったっていいんだよ?」

「どういうことですか?」
 
 私が眉間に力をいれて、横を見やる。すると、エドの笑顔がまるでとろけそうで。

「だって、僕の身体も心も、全部リイナのものなんだから……」

 ――全部、君の好きにして。

 改めて、耳に囁かれる。その吐息が、私の背筋を震えさせた。ゾクゾクと感じざる得ない。私はこの笑顔に食べられてしまう。有無を言わせてもらえず、頭からパックリと。
 すると、エドの笑みがいつもの可愛らしいものに変わった。

「でも、本当にありがとう。やっぱりさ、陰で醜男とか言われてるより、ずっと気分がいいよ。全部リイナのおかげだ」

「そんな、私なんて……」

 自分の欲のために、わがまま言っていただけなのに。
 その言葉は、エドの「ありがとう」という謝辞に隠れてしまう。

 それでも、ここまで絶賛されると、たとえ嘘でも嬉しくて。
 ここまで喜んでもらえると、来た甲斐が合ったなぁなんて思えて。

 思わずはにかんでいると、エドが声量を大きくした。

「具合はどう? 体調を押しての参加、大変痛み入ります。僕のために来てくれてありがとう、リイナ」

「え?」

 私は、彼に具合が悪いだなんて言っていない。実際に身体はどこも悪くなかったし、城に行かない理由だって「会わせる顔がない」と伝えてもらっただけだ。

 ――もしかして、お父様が気を使って?
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