白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
 なんか怒っている気配を察知して私が頷くと、またしてもショウは大きなため息を吐く。

「なんかドッと疲れが出たな。おやつにしようか。今日は暑くなってきたし、水羊羹作ってきたぞ」

「わぁ、すごい! 小豆なんて用意出来たんだ?」

「似たような感じの豆を見つけてな。どちらかというとテングサ……寒天の方が大変だったんだけど……まぁ、食べてみてのお楽しみだな」

 そう喋りながら、いつもの定位置へと歩きだすショウ。なんとなく気になって周りを見渡すも、ショウを殴ろうとしていた男の姿はどこにもない。

「ねぇ、さっき話していた人は大丈夫なの?」

「……あぁ、先輩コックだよ。俺が生意気だからって目を付けられていてさ。今日も因縁付けられていただけ」

 はっきり見たわけでないが、相手はショウがいつも着ているコックコート姿ではなかったはず。まぁ彼が言うなら、今日は非番だったり休憩中だったのかな。

「ふーん……大変なのね」

「そりゃどーも。きみのおかげで、王子からの覚えもいいしな。妬まれるのも仕事のうちさ。働いたことのないお嬢さんにはわからないだろうけど」

「……それは嫌味?」

「いんや。僻み」

 でもショウだって前世で専業主夫なら、あまり働いてなかったんじゃないのーなんて思いつつも、「はいよ」と目の前に懐かしの和菓子を見せつけられたら、そんなのどうでも良くなった。

「すごい! 本当に水羊羹だ!」

「きみ、結構食の趣味渋いよなぁ」

「同じ病室のお婆ちゃんがよくお裾分けしてくれてたの」

 些末な昔話をしながら、「なるほど」とシュウがお茶を淹れてくれる。当たり前のように緑茶が出てきて、私はますます嬉しくなる。

「ありがとう! いただきますっ」

「召し上がれ」

 これまた雅な短い竹串で、みずみずしい小豆色の四角を刺す。プツッとした感触。それは濃厚な羊羹とは違い、水羊羹ならではだ。思わず口角を上げながら食す。あーもう言葉にならない。最高だ。和菓子万歳。

「美味いか?」

「言わずもがなです。幸せです」

「そりゃあ良かった」

 落ちそうな頬に手を当てると、ショウがクツクツと笑う。それがなんだか嬉しくて、私の口が思わず滑ってしまった。

「あー、本当に幸せ。ずっとこの時間が続けばいいのに」

「なんだそりゃ? そんなこと言ったら、王子様が拗ねちゃうんじゃないのか?」

「その王子なんだけどさぁ」
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