イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
わがままなだけじゃない王子様

喧嘩するほど

「今日は定時で上がれる?」

「え、あー」
いつものように遥に聞かれ、答えに詰まった。

捻挫をしてから、毎日遥と一緒に雪丸さんの車で通勤する。
ドクターストップがかかっているからには抵抗もできないまま、それが当たり前になってしまった。

「今日は早めに帰れそうだから、一緒に帰ろうか?」
「だって、夕方から財界の懇親パーティーがあるはずじゃ」
「珍しく社長が行くって言うから、俺は欠席することにした」
「ふーん」

マズイ。
今日は遥の帰りが遅くなると思っていた。

朝は一緒に行っても帰りの遅い遥を待つこともできず、帰りはタクシーで帰ることの多い萌夏。
たまに遥が早い時には一緒に帰ることもあるけれど・・・

「萌夏は遅くなりそう?」
「そうじゃなくて・・・」
「何?」
はっきりしない萌夏に、遥が不信がっている。

「あのね、今日は友達と約束があって」
「友達?」
「うん。地元の友達がたまたまこっちに出てくるらしくて、夕食の約束をしたのよ」
「ふーん」

遥はどうせ遅くなるだろうと思って、事前に話していなかった。
やっぱりまずかったかなぁ。

「行ってもいいかなあ?」
「もちろん、行っておいで」

そうは言いながら、少し不満そうな顔。

会社では感情を表に出さない遥だけれど、家ではわかりやすく喜怒哀楽を表現する。それがかわいいなとも思う。それでも、こう露骨に「嫌だな」って顔に出されるとねえ。

「ごめんね、早めに帰るから」

それでも久しぶりに友人と会うチャンスを逃す気にもならず、萌夏は遥の不満に気づかないふりをすることにした。
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