イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
礼が出て行った後、一口大のおにぎりを3つほど食べおかずもいくつか平らげた。
病み上がりにこれだけ食べれば充分だろう。

トントン。

「珍しいですね弁当なんて」
書類を持って入ってきた高野が不思議そうな顔で見ている。

「たまにはな」

「体はもういいんですか?」
「ああ」
万全とはいかないが、仕事はできるようになった。

この男高野空とは同い年。
一般的には同期ってことになるんだが、学生時代から外部役員として経営にかかわり役職付きで入社した遥とは扱いが違う。
まあそれも、本人が望んだことではあるんだが。

「最近、おじさんの所に顔を出しているのか?」

「・・・」
この話題になると無口になるのは、いつものことだ。

遥自身、平凡な生い立ちだと思ったことはない。
恵まれた環境だが、それなりにコンプレックスだって抱えてきた。
それは、苦労人の雪丸や礼も一緒だろう。
そして、こいつもいわくつきの過去を持っている。

「琴子おばさんが萌夏ちゃんのことを気にしてますよ」
仕返しのように意地悪い顔。

「余計なことは言うなよ」

「ええ、わかってます。だから俺のことも放っておいてください」

なるほど、交換条件ってわけか。

こいつとの付き合いは雪丸とは別の意味で長い。
今は本人の希望で『高野』と呼んでいるが、子供の頃は『空』『遥』と名前で呼んでいた。

「屈折しているな」
「お互い様です」

遥の周りにはどうしてこう訳アリが集まるんだか・・・

「今夜は営業の若手で飲み会ですから、萌夏ちゃんを借りますよ。邪魔しないでください」
「ああ」

邪魔なんてするか。好きなだけ飲めばいい。

「じゃあ、失礼します」

最後まで部下としての態度を崩すことなく、高野は出て行った。
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