イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
「萌夏ちゃん」
肩をポンと叩かれ、名前を呼ばれた。

「あ、川田さん」

一緒にお昼を食べた川田礼さんがそこに立っていた。

「なかなか帰ってこないから、探しに来ちゃった」

そうか、トイレに行く途中で女子社員たちの会話を聞いてしまってそのまま社内をフラフラしていた。
勤務中に姿を消せば、そりゃあ心配するわよね。

「すみません」

「いいのよ。それより大丈夫?顔色がよくないけれど」
「大丈夫です。すみません、ちょっと迷ったみたいで」
「そう」

聞きたいことはある。
川田さんならきっとすべてを知っていると思う。
でも、聞くのが怖い。

「もしかして、何か聞いたの?」
「え?」

「正直言って、今日の社内は萌夏ちゃんの話題で持ちきりだから。耳に入ったのかなって」

はぁー。
やっぱりそうなんだ。

「あの・・・川田さんは」
「ああ、礼でいいから」
「はい、じゃあ。礼さんは、遥と親しいんですよね?」

お昼の会話からそう感じていた。

「そうね。遥って呼べる程度にはね」
「それって・・・」
どういう意味だろう。

「私は10代のころから遥を知っているわ。ここに就職できるよう口をきいてくれたのも遥。萌夏ちゃんと同じね」

そんなに昔から知っているんだ。
でも、きっと、同じではないと思う。
萌夏は遥のことを何も知らないから。
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