イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
「遥は平石財閥の跡取りなんですか?」
思い切って口にしてみた。

今まで1か月以上一緒に暮らしながら気が付かない方がおかしいのかもしれないけれど、萌夏は知らなかった。
もちろんお金持ちだとは思っていたし、お坊ちゃんだとも思っていた。けれど、スケールが違いすぎる。
萌夏の想像していたものとは、公園のボートと空母くらいのサイズ感の違いがある。

「本当に知らなかったのね」
「はい」

「遥が平石財閥の跡取りなのは事実よ。いろいろと事情もあるから絶対ってわけではないけれど、このままいけばそうなると思う。それに、能力的に言っても適材だと思うしね」
「そう、ですね」

そう言われてみれば、あのプライドの高さも、発せられる言葉の持つ力強さも、人の上に立つ者に備わっているべきもの。

「どうする?ここを辞める?」

え?

「過程はどうあれ、身分を明かさずにここを紹介されたんでしょ?そのせいで萌夏ちゃんはいわれのない非難を受けた。辞めるって選択肢もあると思うけれど」
「それは・・・」

今までだって気づくチャンスはあった。
特に、同棲を始めるときにもう少し調べるべきだったと思う。
でも、自分でそれをしなかった以上、今ここで遥を責めるのは筋が違う。
自分の意志でここへ来たんだから。

「このまま逃げだしても、誰も萌夏ちゃんを責めたりしないわ」
「いえ、このままここでお世話になります」
「いいの?」
「はい。だから、礼さんも今日のことは言わないでください」

こんな話が耳に入れば遥はきっと怒るだろうし。
このまま何も知らないままでいい。
どうせ今だけの関係だもの。

「わかったわ。じゃあ、戻りましょ。雪丸が怒っているから」

えええー。
それは困った。
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