イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
どうしよう。
あのお客さんが怪しいなんて誰に言っても信じてもらえない。
下手をすると私の方が怪しまれてしまう。
だって、目に見える根拠は何もないんだから。

「どうしたの萌夏ちゃん?」
お盆を持ったまま給湯室で立っていた萌夏に礼が声をかけた。

「あのお客様なんですが、」
「何、知り合い?」
「いえ、そうではなくて・・・」

子供のころから、萌夏は霊感のようなものがあった。
霊感と言うよりも、その人の持つオーラが萌夏には見えるのだ。
悪だくみをしているときや、悪意があれば黒や群青色。
危険が迫っていたり、切羽詰まっているときには赤やオレンジ。
不安な気持ちがあれば、黄色系の色を放つ。
その強さもその人の持つパワーと思いの強さに比例し、その人本来が持つオーラは透明感がある色なのに対して一時的な感情は濁った色になることが多い。
とにかく千差万別で一人一人違うため萌夏の受ける印象によるものが大きい。
だからこそ、絶対とは言えない。

「何か気になるの?」
「ええ、なんとなく」
それ以上は言えなかった。

あのお客さんの背後にどす黒いオーラを感じるなんて言っても、きっと信じてもらえないと思う。
気持ちの悪い子ねと、言われて終わりだろう。
子供のころからずっとそうだった。

「いいわ、調べてみましょう」
「いいんですか?」
「ええ。でも雪丸や遥に話すのは調べてみてからね」
「はい」

礼さんだってたくさん仕事をか抱えているのに、引き受けてくれた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、萌夏は少しほっとした。
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