イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
それから1週間。
日がたつにつれて萌夏があのお客さんのことを思い出すこともなくなっていた。

礼さんは何も言わないないし、あれきり姿を見ることもない。
もしかしたら気のせいだったのかもしれないと思い始めていた。

「小川さん、この伝票今日中に頼めるかなあ?」
「はい、いいですよ」

仕事にも慣れて、仕事が楽しくもなってきた。

「ねえ、今日若手で飲み会をするんだけれど、小川さんもどう?」

こうやって時々飲み会に誘われることもある。
でもなあ・・・

「今日は、やめておきます」
確か遥が早く帰るって言っていたから。

「お兄さん?」
「え、ええ」

ここに勤めるようになって何度か飲み会に誘われるたびに、「同居してる兄のご飯を作らないといけないので」と言い訳をするようになった。
本当は兄ではなく遥の食事だけれど、まさかそれを言うわけにもいかず、兄と同居中とごまかしている。

「じゃあ、また誘うね」
「はい」

職場の同世代との飲み会は嫌ではない。
そんなに頻回に行こうとは思わないけれど、たまに行けばいい刺激をもらえるし普段自分が作ったのもしか食べない萌夏にとってはメニューのレパートリーを広げるいいチャンス。
だから、美味しいものを見つけると必ず家で再現し遥に出している。

「あれ、礼さんは?」
「さあ」

そう言えば、さっきから姿が見えない。
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