サプライズは素直に受け取って。
何年振りにこのレストランに来たのかも思い出せない程に狼狽えてしまう。
姉が今頃、何をしているのかも気になってしまう。
それは決してシスコンだからではない。

私だけが此処から先に進んでしまって家族の思い出に変化をもたらして良いのかと。
なかなか覚悟が決まらず、足が竦んでしまう。
俯き始めた私にそっと手を握られた感触が伝わる。

「さあ、そろそろ入ろう。
 寒いだろ?
 大丈夫。僕がついているから。」

入店するのに躊躇っていた私に、さりげなく手を握りエスコートをしてくれる。
人のぬくもりの気持ち良さを久しぶりに感じたのかほっとする自分がいる。

ふぅと一息吐き、覚悟を決める。
「…はい。
 お待たせして、すみません。」

こんな事にならない限り、このレストランを訪れる事はなかっただろうと思い、来店のきっかけを作ってくれた事に感謝をし、握られた手を少しだけ力を込めて握り返し"大丈夫、入りましょう"のサインを届ける。
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