冬に花弁。彷徨う杜で君を見つけたら。

海から繋がる旗縄の花墓陵

藁を拾う。

「あたしからやねん。
リュウちゃんに、告ったん。
秋祭りん時やってん。あたしら
んとこは神輿やのうて、櫓や。
ニュースにもなるだんじり祭、
あるやん?あれに夏から、男子
は、練習に混ぜてもらうんよ」

チョウコは
そして また藁を見つけて拾う。

3万年前、人類は葦の舟で
この国に渡ってきたという。

その名残なのか、
葦より身近な藁で、
舟を作る神事をする地域は
多い。

「法被マジックいうのん?
祭マジックいうのん?祭ん時
になると、やたらカップルに
なんねん。昔っから、神さんの
見てる前、カッコよー見えるん
は、縁を結んでもらうからなん
かもしれんへんなー。な?」

リンネが呼んだタクシーに
乗って
30分も経たずに目的の社に
ついた3人は、
いつもなら正面につけるが
と断りを運転手に言われて
離れた駐車場に降ろされた。

「そない思ったら、この場所
1番のパワースポットやねぇ
何て言うても、国生みの夫婦神
さんのお墓いうんやし。」

そう言ってキコも
境内に落ちていた藁を拾う。

頭上には、真新しい
注連縄がプリミティブな旗縄を
いくつも揺らして
海へと張られいる。

「初恋の初告白の社と、こちらの
社を一緒にするのはどうかと
思いますけど、、わたしは
ここの参道に入ると、
鳥肌が立ちっぱなしで。
それに縁結びはどうでしょ?」

言いながらリンネも見つけた
藁を拾った。

駐車から『茶屋』を通った時、
氏子の1人と思う老人に
『あんたさ、終わったれ』
と声をかけられた3人は、

午前中に
御神体の巨石に綱をかける神事が
あった事を知った。

『お綱に触だぜんかわり、藁な』

どうやら、綱に触ると縁起がいい
から、せめて散った藁でもと
いう事らしい。

綱は境内の外に纏めて括ってある
場所まで教えてくれた。

「色恋とはちごうてる雰囲気
しかあらへんよ。ここ。」

キコが声を潜めて2人に囁いた。

長くない参道を抜け、
神務所を潜り抜けると
一目では見渡す事が
到底できない巨岩が現れる。

「まあー言えてる!あたしんとこ
の神社と全然違うわ!もうさ!
この岩、なんや白ーく光って
見えるやん。生きとるよな」

広くない境内はどこか異空間。

「お石さんにほうてる、ツタが、
いわれたら、血管みたいて、
チョウコさんがへんな事
いいはるから心臓に見えるわ」

藁をクルクルしながら、
キコがチョウコを恨めしそうに
みた。

新しい注連縄を編んだり、
締めたり、する間に 漏れた藁。

辺りは静かで、
無音のような状態に感じる。

「人形を夢中で作っていると、
ゾーンに入るんですけど、
何故か、同じ感じしますよ。」

「さすがぁ、黄泉と接する場所
ちゃいます?ここで告りはっ
たら、別の門開きそうやわ。」

岩に、波が耳元に
反響するように 聞こえて
空気が震える。
それが 鼓動にも錯覚する。

70メートルもある巨岩には、
侵食で無数の穴があいて
そこに、願いが込められて
白石が入れられてたりする。

「まるで、海に繋がる心臓やー
もしかしたら、リュウちゃん
おるとこ、教えてくれるんちゃ
うん。どーか、リュウちゃん
に会わせてくださいましー。」

チョウコが
巨石の前にある、小さな石の祭壇
に立って手を合わせる。

後ろから、リンネとキコが
頭上で揺れる旗縄を見上げた。
それは、
ひどく原始儀式を思わせ、
巨石に 神秘さを添えている。
さながら、
黒髪に白装束のチョウコは
巫女に見える。

「3つ旗縄の意味は、
『太陽の神』、『月の神』、
『地上の神』注連縄は、、
「風、海、木、草、火、土、水』
7つの神を現すだそうです。」

リンネが横にある看板に
気がついて読み上げる。

「お供えを、注連縄につけるのん
初めてみたわぁ。あ、お正月の
玄関飾りみたいなもんかも?」

揺れる旗縄には、
彩りの花々や、紅白餅、扇が
結わえられたばかり。

「あぁそやわ、昔沖縄行ったや
けど、『ウタキ』。あそこに
雰囲気似てはるわ。チョウコ
さん見たら、思い出したわ。」

まだチョウコは
祭壇の前でブツブツ言っている。
神事も終わったとはいえ
境内や回りには
人の姿も多め。

「い言えて妙ですね。妻神に
村人が花を捧げたのが、この
社の由来らしいですけど、
ここは神を埋葬した陵墓なん
で、ウタキみたいなものです
よね。もしかしてら、お告げ
とか降ろしていたのかもです」

ようやく気が済んだチョウコが
2人に戻って、

「ウタキかあー、ニライカナイ
やろ!海の底の世界。そか、
リュウちゃんは、そこにおる
んかもなー。腑に落ちたわー」

どこかさっぱりした顔を
見せて、

「奇跡なんて、簡単やないしな」

言葉をつづけて、巨石を仰ぐ。
その目に光が零れて消えたのは
あえて、キコもチョウコも
指摘はしない。

巨石に、海の音が反響すると、
また
空気が震えて、
鼓動のように 聞こえるのを

3人で

聞き入って

「魂さんの眠る所に繋がってはる
かもしれへんてことなんやね」

キコもチョウコの隣で

呟いた。


凪いだ 空間に丸い空気を
胸に納めたような
穏やかさ。

それでいて、白装束は
泥だらけ。


「チョウコさん、キコさん。
亡者の鐘付きから、出逢いの道
を巡礼してどうでしたか?
ユーレイには会えませんでした
けど、、落ち着きましたか。」

にわか先達のリンネが、

チョウコとキコに問うと

2人は 神妙そうに、

「ありがとなー。」
「おおきにやわ」

と、頭を下げた。

リンネの顔がふと緩む。



「じゃあ、帰りましょうか、
、、、、、、
山の小屋には戻りますけど
チョウコさん、車 置いてます
よね。キコさん、どうします」

「なあ、外の茶屋さんに寄って
古代米のおうどん食べたいん
やけど、いきはりません?」

キコが、外を指差して
ニコリと笑うと、チョウコも
賛成する。

「賛成!!ソフトクリームあった
で、あれも食べよーや!」

「この寒いのに、よく食べれ
ますね。あたしもうどんです」

リンネも仕方ないと踵を返して
外の鳥居に向かう。

「ほなら、お茶屋さん行きましょ
うちも新宮の駅から帰るし。」

キコも途中までの同行を
告げて
拾った藁を
手拭いに挟んだ。

そうして
3人は境内から
下界へと折り返して、別れる
予定は、
駅に着くと、覆されるとは

まだ女達は知らない。



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