その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
「あの、朱音ちゃんと何かありました?」
「……いや。どうして?」
俺が書類のコピーを取りながら事務フロアをじっと見つめていたからだろうか。急に「朱音ちゃんなら資料室ですよ」と話しかけられて少し驚いた。
俺がC健に異動してきた少し前に事務のバイトとして入所した瀬尾さんが話しかけてきたのは、記憶が正しければ現場に差し入れをした時にお礼を言われたくらい。
人見知りなのかあまり目も合わさず話す子だという印象だったが、朱音とは仲良く話している姿をよく見かけた。
「あ、いえ。今日はやけに可愛い格好をしてるなと思ったので。『デートなの?』って聞いたんですけど…」
そこで一旦話すのを止め、続きを言葉にするのを躊躇ってみせた。しかし俺をじっと見据えると、意を決したように口を開いた。
「あの、朱音ちゃん、私の大事な友達なんです。だから…、泣かせるようなことしないでくださいね」
言いたいことだけ言うと、俺の返事を待たずに「すみません、失礼なこと言って」と頭を下げ、自分のデスクに戻っていった。
やはり事務の女性職員が2人も一気に辞めたせいで、俺の印象はよくないらしい。しかし、今問題はそこではない。
瀬尾さんのあの言い方からして、朱音が『可愛い格好』をしているのは俺とデートだと思ったらしい。何度かランチに出ているところを見ていたんだろう。付き合いだしたとでも思っていたんだろうか。しかし、朱音はそれを否定した。