その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

当然だろう。俺はこの2週間避けられ続け、業後の約束どころか朝の挨拶すら交わせていない。

彼女がどんな格好をしているのか見ていないが、瀬尾さんがデートだと思うくらいの格好をしているんだろう。
普段パンツスタイルの多い朱音が、『可愛い格好』をして俺ではない誰と何処に何をしに行くのか。

考えれば考えるほど、知ったばかりの嫉妬という厄介な感情が俺の身体全体を蝕んでいく。

時刻は午後5時35分。定時を30分も過ぎている。
今捕まえなければ、朱音はフロアに戻ってくればすぐに帰っていくだろう。

俺は急いで踵を返し、エレベーターで地下へ向かった。



◇◇◇

痛む唇を舌で舐めると、鉄の味が口の中に広がった。
噛まれた唇以上に痛む胸は既に後悔で一杯で張り裂けそうになっている。

朱音の煽るような発言に理性が利かず、彼女の身体の自由を奪って強引に口づけた。

甘く柔らかい唇を無理矢理こじ開け、小さな舌を吸い上げるように絡め取り、思うままに彼女を貪った。

嫉妬や独占欲といった感情に、さらに征服欲や嗜虐心にまで火が付いた。

このまま彼女を自分のものにしてしまいたい。
俺しか見えず、俺の声だけを聞き、俺だけを感じるように。他のことは何も考えられなくなるほど、ぐちゃぐちゃに愛して抱き潰してしまいたい。

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