お前の隣は俺だけのもの。
「そうだー。陽菜ちゃんに用事があったんだ! 陽菜ちゃん行くよー」



怜央に腕を引っ張られ続け、立たされる私。

強引に連れて行こうとする怜央。

これは完全に拒むことができない、と判断した私。

慌てて、置いてあった鞄を掴み、凛ちゃんに手を振る。



「凛ちゃん、またね!」

「あ、はいっ」



怜央に引っ張られ、廊下に出る。

部室が見えなくなったところで、怜央が手を離してくれる。



「……用事ってなに?」

「碧となにかあった?」



私が質問したのに質問で返された。

とりあえず『なにもないよ』と言い返そうと思ったのだけど。

怜央の目を見れば、真剣な目をしていた。


……目が笑っていない。


初めて見る怜央の真剣な表情に戸惑ってしまう。

碧にキスされて頭がいっぱい、なんてことは誰にも話せないし……。


私が黙っていると、怜央はふっと笑った。



「なにもないならいいやー。呼び出してごめんね」



そう言って怜央は手を振って、どこかへ消えた。

潤は『またな』と言って怜央の後を追いかけた。


……怜央は、なんで私を呼び出したのだろう。

なにを知りたかったんだろう。


……考えても分からない。


頭に浮かぶのは、怜央の真剣な表情と、潤の優しい笑顔と。

碧の切なそうな顔だった。
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