君に伝えたかったこと

あれから

深夜の事務所で紗江と二人きりで話した、あの晩。
結局、なんの答えも出ないままで会話は途切れ、紗江は先に帰ってしまった。

(紗江が残したあの言葉・・・)

芳樹にとって、一番大事な事でありながら、目を背けていたことを見透かされたようだった。

もちろん、美貴恵との未来を考えなかったわけではない。
そのことを幾度となく、話題にしようと思ったことだってある。

ただ、それを口にしてしまうと、二人の時間が終わってしまうのではないかと、怖がっていたのも本当だった。

(このままでは何も変わらない。このままではいけない)

その気持ちは美貴恵と再会してから、いつも心の奥の方に住み着いていた。


いっぽう、紗江といえば、あの晩のことを気に留める様子もなく、毎日のようにラインや電話を普通にしてくる。

紗江には申し訳なかったが、芳樹にとっては、その方が気楽だった。

恋人がいること、お互いの気持ちがわかったことで、急激に何かが変わることもなかったけれど、少しだけ気持ちの靄が晴れたような気はしていた。

ただ、今のままでは、なにかが解決の方向に向かうことはない

それもまた、動かせない事実だった。

そんなことを考えたいたとき、紗江からラインが来た。
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