冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 会うと言っても特別なにかをするわけじゃない。お互いの時間のあるときに落ち合って話をする。最初はそれだけだったが、会っているうちになんでも器用にこなしそうに見えて実は抜けている瑠衣の不器用さや、ドライに見えるのに周りに対しての温かいふるまいを目にするようになって、いつからか俺から誘う回数の方が圧倒的に多くなった。

 彼女から誘ってくるのは、もっぱら恋愛がうまくいっていないときが多い。いつもどこかのくだらないマニュアルを参考に、頭でっかちな恋愛まがいのことをしているのだからうまくいくはずない。早くそれに気が付かないかとこちらはずっと気長に待っていたが、そもそも鈍すぎて、俺の気持ちにも気が付いてないんだろう。

 しびれを切らしそうになっていたところに、また落ち込んだ瑠衣から連絡が入った。俺はこのチャンスを都合よく使わせてもらうことにしたのだ。

 そして結果……上々といったところだろうか。

 少々強引だったことは否めない。けれど頭でっかちの瑠衣が俺との恋愛のスタートを切るには刺激的でよかったのではないかと思う。

 他の誰かと同じような恋愛なんて彼女とするつもりはない。

 少し意地っ張りで、でもさみしがりやで甘えん坊。かわいくないことを口にしながら、かわいいことをする……そんな彼女がやっと俺を男として見るようになった。

 ここからがスタート。ふたりのこれからを思うとわくわくしていた。

 目の前で美味しそうにアイスティーを飲む彼女はそれをわかっているのか、いないのか。
 思わずいじめたくなって、彼女に答えづらい質問をぶつけてみた。

「俺とのセックスの感想を聞きたい」

 アイスティーを噴き出し、目を白黒させたかと思うと、周囲をしきりに気にしている。そんな彼女を見るとかわいくてどうしようもなくなる。

 瑠衣が意地っ張りでよかった。そうじゃなければ、こんなにかわいい姿を他の男も目にすることになっていたはず。

「よかった……と思う」

 こちらを見ようともせずに、真っ赤な顔で答えた瑠衣にますます心をもっていかれそうでこっちが戸惑う。しかしその顔はかわいいものの、答えには納得できない。

〝……と思う〟だと?

 このままにしておいては、男の沽券にかかわる。まあ最初からこれっきりで終わらせる気なんてさらさらないけど。

 照れ隠しか目の前のフレンチトーストを黙々と食べる瑠衣。今度は本当に頬にシロップがついている。それを舐めとりたい衝動を抑えて「ついてるぞ」と彼女に教えた。

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