君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 私の隣に座っていた悟くんが、ノートを目配せして尋ねてきた。


「これは図書館にあるノートだよ。本の感想を書いたり、リクエストを書いたりできるの」

「……? なんでそれを持ってきてるの?」


 私は深く笑ってこう答えた。


「――これはね。私と樹くんを繋いでくれた、ノートだから」

「ふーん?」


 悟くんはよくわかっていないようだったけれど、これ以上聞くのは野暮だと思ったのか、追及してこなかった。

 そうこのノートは私たちのはじまりのノート。

 顔も名前も知らない頃から、私たちの懸け橋になってくれたもの。

 手術は本当に長くて、急に不安に襲われる瞬間があった。

 やっぱりダメだったんじゃないか。

 樹くんとはもう笑い合えないんじゃないかって。

 でもそう思う度に、私はノートを開いて、彼の――樹くんの書き込みを見た。


『君っていつも俺の悩みに真剣に答えてくれるじゃん。すげー優しいよね』

『相手に思いを伝えるのってすごく大切だよ』

『たとえダメでも、言わないで後悔するよりはマシだよ』


 私をいつも励ましてくれた、樹くんの強い言葉たちを。

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