私があなたを殺してあげる
 こんな強引に・・・ 
 それに手を・・・手を繋いでる・・・


 私は突然に起こるいろんなことに、完全に酔いが醒めてしまった。そしてこの状況になんだか、体がポカポカとあたたかくなる。これは浅尾くんの上着だけのせいじゃない、きっと浅尾くんの行動に体の体温が上昇しているのだ。


「確か、このマンションでしたか?」

「うん・・・」

 目と鼻の先の私のマンション、三階建てでエレベーターはない。私は階段を上り、二階にある自分の部屋へと向かう。

 ドラッグストアから一分もかからないこのマンションなのに、私には数分掛かったような気がした。それはきっと強引な浅尾くんのせいで緊張してしまったせいだろう。


「こんなに家が近いのに、何やってるんですか? 今度からは・・・ どうしたんですか?」

 私に怒る浅尾くんの顔が急に、心配そうな表情に変わる。

 なに? どうしたの? 
 そんな心配そうな顔をして・・・ あれ?

 私はそこで初めて気付いた。自分の頬に涙が流れ落ちていることに。


 私、泣いてるの?


「あれ? どうしたのかな? なんで?」

 私は慌てて涙を拭った。


 あれ? さっきは恥ずかしくて、ポカポカして、なんだかむず痒くて、ドキドキして・・・ なのに何で涙?


「何か、あったんですか?」

 浅尾くんが私の顔を覗き込む。私は思わず顔を背けた。


 何やってんの? 涙、止まれ!

 涙を止めようとしても全然止まらない。

 その時、階段の方から人の声がした。
私はこんな姿を見られたくないと思い、咄嗟に家の鍵を開けると、浅尾くんも一緒に家の中へと押し込んだ。


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