私があなたを殺してあげる
後悔の上書き

「ああっ・・・ んんっ・・・」

 とあるラブホテルの一室・・・ 

 ことを済ませるには十分な広さのダブルベッドの上で、私は男性の首にしがみつくように腕をまわしていた。


 激しく腰を動かす男性に体を委ね、私の息づかいも荒々しくなっていく。
 そして快楽に悶える表情と甘く漏れる声に、男性はより興奮し息を上げながら激しさを増す。


「ねぇ? 気持ちいい?」

 男性は私の顔を見つめ、そう問う。

「うん・・・ 気持ちいいよ」

 私は少し笑みを浮かべ、そう答える。

 男性は「よかった」と言って、満足そうに口角を上げる。

 気持ち・・・いい? 本当に?

 快楽を感じながら私は、何故か自問自答していた。


「イクよ? 杏ちゃん」

「はい・・・ ああんっ!」

 男の我慢ももう限界、すべての欲情を私にぶつけるように、男は果てた。


 男はベッドを出ると、ズボンから煙草を取り出し、火を点けた。

「ふぅー・・・」

 男が煙を吐く姿は自分も相手も満足させられたという優越感のようなものを醸し出していた。

 そんな男の姿も気にせず、ことを終えた私は仰向けになったまま天井を見上げていた。


 今のセックス、気持ち良かった。けどなんだろう、この虚しさは・・・ 

 快楽は得られた、しかしどうしようもない背徳感のような感覚が込み上げてくる。

 なに? この気持ち・・・

 男は煙草を銜えながらそそくさと服を着て、帰り支度を始める。

「俺はもう出るけど、君はゆっくりしていく?」

 男は仰向けになっている私の隣に寄り添うと、やさしく髪を撫でながら問い掛けて来た。

「いえ、私ももう出ます」

「そう、わかった」

 男はそう言うと、私の唇にやさしくキスをした。

 なんだろう今のキス・・・ まったく何も思わない。

 セックスって、キスって、こんな感じだったっけ? 嬉しいものじゃなかったっけ?

 私はまたも自問自答する。


 さっきまで熱を帯びていた身体と心は、びっくりするくらいに冷め切っていた。


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