私があなたを殺してあげる
「智明はいつから夜中のバイトを始めたんですか?」

「それももう十年になります。ちょうと給料が貰えなくなった時期と同じです」


 十年もの間、智明は昼と夜の仕事を続けているのか? 


 世界中を探せは、こんな人たちはたくさんいるだろう。しかしこの平和な日本で、そんな暮らしをしている人はそうはいないはず。少なくとも私の近くにそんな人はいない。

智明の状況は、私の想像をはるかに超えていた。


「父親は子供にも給料を払えない状況で何故、十年もの間、店を続けて来たと思います?」

「いや、わかりません・・・」

「それは自分がこの仕事以外できないから、いや、したくなかったからです。父親は外で働いた経験がありません、だから外で働くのを嫌った、人に使われることを嫌ったんです。外で働けば今みたいに智明はいない、楽はできないからです」

「そんな理由で・・・?」

「あの人はずっと他力本願で生きてきました。誰かの力で自分の印象を上げる、ずっとそうしてきたんです」

 そんな人だとは思わなかった。私が見た浅尾さんは紳士でやさしい人、とても素敵な人だ。それがあゆむさんの話だと、最低な父親だ。


 それからもあゆむさんの話は続いた。


 共に何かを我慢し、一生懸命力を合わせて頑張るなら話はわかる。しかしいつも我慢するのは智明だけ。いや、父親も借金を抱え苦労はしていただろう、しかしお金のことを考えるだけで、業務の方はほとんどを智明がしていた。それにお金がなければバイトで稼いだお金をせがみ、足りなければ友人でも知人でも借りに行かせてお金の工面をさせていたと。


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