私があなたを殺してあげる
「関係ある、私は智明の彼女やから! 今すぐ智明を解放して!」

 私は自分が彼女だと言い嘘をついた。どうしてもこの父親と話し合いたかったから。


「それは無理や、智明は一生、俺のために働き、生きるんや。それが生んで育ててもらった親への恩返しや」

「なんて酷い人・・・」

「それに君が彼女? そんなん認めん。こんなところで働いて、誰とでも寝るような女なんて、浅尾家の嫁には相応しくない、汚らわしい」

「なっ・・・」

 私はそこから何も言い返せなかった。智明のことならまだしも、私のことを出されては何も言い返せない。私は自分の無力さを、今までの自分の行いを恨んだ。なんでもっとちゃんと生きてこなかったのかと。

 浅尾さんに言いくるめられてしまった。


「智明とはもう別れてくれ、目障りや」

 浅尾さんはそう言って私の肩を押し退け、店の中へと戻っていった。


この人は本当の悪だ。自分の間違いにまったく気付いていない。罪悪感がまるでない。


 智明はこれからもこんな人のために生きていかないといけないんだろうか? きっと今、どこかに逃げたとしても、父親のやったことは智明の肩に圧し掛かって来る、それどころか近くで見てないことをいいことに、もっといろんなことを仕出かすだろう、それがまた智明に圧し掛かり、苦しめられる。


 もう無理だ・・・ きっと智明は、あの人からは逃れられない。

 
 親子の縁ってものは切ることができないんだ。


 どうすれば、智明は救われる? 
 この父親から解放される? 
 どうすれば智明は自由に生きられる?


 私の中には『絶望』その感情が体中を支配していた。



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