私があなたを殺してあげる

　私は昔から胸が大きいせいで男子からからかわれ、いやらしい目つきで見られてきた。それは社会に出てからも同じで、上司や同僚からそういう目で見られ、体に触れられたり、いやらしい言葉を掛けられたり、そんなセクハラをずっと受けて来た。上手くかわそうとすれば機嫌を損ねられ、ある程度は仕方ないと受け入れると、女子社員からは色目を使っていると疎まれるようになり、私は会社での居場所を失って行った。


　私はただ、ちゃんと仕事して、同僚と仲良く過ごして行きたかっただけなんだ。


　そんな時だ、夫と出逢ったのは。彼は人間関係で悩む私を支えてくれた、やさしくしてくれた。私をいやらしい目でなく、ちゃんと一人の人として初めて向き合ってくれた人だったんだ。だから私はそんな彼のプロポーズを受け、会社を辞め、家庭に入ることを選んだんだ。彼と共に生きて行こうと。


　しかしその幸せも長くは続かなかった。結婚して一年くらい経った頃、夫は家に会社の人間を連れて来た。その中には私にセクハラしてきた上司も数名含まれており、彼らは旦那の見てない隙に、またも私に言い寄って来て、体を触ってきた。そしてその場面を夫に目撃されてしまったのだ。


　夫はその日から変わった、私が会社の人間と関係を持っていると疑うようになったのだ。


　私は何もしていない、被害者だ。少し考えればすぐにわかること、しかし当時の夫にはもう、そのことを理解できる余裕はなかった。夫はその日から、私に暴力を振るうようになったのだ。


　今思えば結婚する前からずっと堪えて来たのかもしれない。私がまだ会社にいる頃から私がセクハラを受けている時も、やさしくしてくれた、守ってくれた。けど本当はとても辛く、やりきれない気持ちを隠していたのかもしれない。それが一気に溢れ出しＤＶに繋がったのかもしれない。


　夫を頼って、自分では何もできなかった私も悪かったのだ。

　離婚をし、実家に帰ることになった私、しかしそのことが父の反感を買った。


　昔ながらの考えを持つ父には離婚が恥ずかしいことだった。特に立派な家柄でもないが、古風で堅物な父には、離婚をして出戻って来ることは恥なのだ。女は男のやることに口答えせず、我慢して尽くすのが当たり前。どんなことにもじっと耐え、家族のため仕事をし、疲れて帰って来る旦那をいつも笑顔で迎える、それが妻の務め。などといつの時代の夫婦像を語っているのかと思わせるくらい昭和の男なのだ。


　そんな家に私の居場所はなく、すぐに家を出ることになった。
　私は本当の意味で、独りぼっちになってしまったんだ。


　そんな人生が嫌になり、私は自暴自棄となった。


「はぁー・・・　死にたい・・・」

私はまた、すべてが嫌になる感覚を覚えながら一人、ネオン街をふらふらと歩いた。