私があなたを殺してあげる
 私の名前は楠田杏子、二十八歳。
 最近、スナックで働き出した。男が杏と呼んでいたのは店での源氏名だ。 

 さっきの男はスナックのお客さんで須山という。

 彼は私のことを気に入ってくれたのか、この業界で働くのは初めてで右も左もわからない私にやさしく接してくれて、気遣ってくれた人。


 私はそんな彼に惹かれ、誘われるままホテルへと行った・・・ というわけではなく、やさしいと感じたのは本当だが、別に彼に惹かれてホテルへ行った訳じゃない。ただ、どうでもよかった。お金をくれるというし、特に嫌いなタイプでもなかった、だからセックスした。本当にどうでもよかったんだ。

 多分、今の私がこんなんなのは自暴自棄になっているせいだ。


 嫌なことがあって、いろんなことから逃げ出して、私はこの場所にいる。だから誰かに抱かれるくらい何ともない、どうなったっていい、きっと私は自分自身を傷付けたかったのだ。

 それで性格も人柄も、たいして知らない男性と、私は寝た。


 こんなことどうってことない、そう思っていた。しかし実際は背徳感と虚しさに襲われ、余計に自暴自棄になりそうだ。

 私は何をやってるんだろう・・・


 なんで私がそんな自暴自棄に陥ったのか、それは半年前にした離婚が原因だった。
理由は元夫のDV。結婚した当初の彼は本当にやさしくて、ダメな私を陰から支え、守ってくれた。私はそんな男らしい彼に惹かれ結婚したのだ。

 それが結婚して一年くらい経った頃から彼は暴力を振るうようになった。手足にだけでなく、顔にまで痣が出来るほどの暴力。さすがに私は命の危険を感じ、家を飛び出した。そして弁護士を立てて離婚を成立させたのだ。


 本当に大変な結婚生活だった。しかしすべてが夫のせいではない、それまでの過程にも問題があったんだ。


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