私があなたを殺してあげる
「そうや、さっき買ってきたスパークリングワイン飲む?」

「でも俺、車やしなぁ~」

「少し仮眠していきよ。疲れてるやろうし、お腹膨れたら眠くなるやろ?」

「んん~ そうやな。じゃあ頂くわ」

「うん」

 私はグラスにスパークリングワインを注ぐと、顆粒の睡眠薬を入れた。

 何も知らない智明は美味しそうに、スパークリングワインを喉に流し込む。


 智明、あなたは本当によく頑張った。本当に・・・


「あれ・・・ なんか眠くなってきた・・・」

「働き過ぎで疲れたんやわ。ちょっと横になり」

「うん、そうさせてもらうわ」

 私は智明をベッドへと誘導する。

 智明は横になるとすぐに寝息を立て、眠りに落ちた。


 私は智明の寝顔を見ながら髪をやさしく撫でる。

「智明、よく頑張ったね、本当にすごいよ、あなたは・・・」

 私も布団に潜り込み、智明に寄り添う。

 大きな手、厚い胸板、あたたかい体温・・・ 愛おしい・・・ 


「好き、大好き・・・ 智明・・・」

 私は智明の体に腕をまわし、ぎゅっと抱きしめる。


 この大きな手で頭を撫でられて、厚い胸板に守られて、大きな心で愛される。
 生きていれば、そんな未来もあったのかな? 
 たくさんの子供に囲まれ、年老いても手を繋いで歩く、そんな未来もあったのかな?


「きっと楽しいだろうなぁ・・・ でも、それはきっと叶わないね?」

 私はベッドの横にある三段のケースの一番上から、包丁を取り出した。


「智明・・・ 本当によく頑張ったね・・・・ 今、楽にしてあげるからね?」

私は持った包丁を智明の背中に向かって突き立てた。


「智明、愛してるよ・・・」

 そう言って、ゆっくりとそのやわらかい部分に包丁を突き刺した。


 わたしもすぐに追い掛けるからね? 

 そして私も大量の睡眠薬を飲んで、そのまま意識を失った。


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