逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る
 けれど、俺の失言のせいで固まったままの彼女を見て、頭が真っ白になった。

「こいつが俺の婚約者? 父上、俺はこんな生意気そうな女と結婚するなんてごめんです」

 いくら動揺しているからとはいえ、この言葉選びは最悪だった。
 言葉は刃物だ。目に見えないものだからこそ、余計に言葉は慎重に選ばなければならない。心の傷は一生消えないこともあるのだから。
 しかし、一度口に出してしまった言葉は取り消せない。謝罪をしたところで、なかったことにはならない。しまったと思っても、弁解するいい言葉がひとつも思いつかない。

(どうして俺は本音を素直に言えないんだ! ただ『可愛いね、妖精のようだと思った』と伝えればよかっただけなのに……!)

 どこの世界に、公衆の面前でけなされて喜ぶ令嬢がいるのか。
 これはもうだめだ。そう覚悟した俺に投げかけられたのは、彼女の怒りの声だった。

「誰がこんなちんちくりんと結婚なんかするものですか!」
「なっ……」

 長い闘病生活のせいで、俺の身長は同年代より低い。一番気にしていたコンプレックスを刺激されて、俺はつい怒鳴り返してしまった。

「身長のことを口にするなんて失礼だぞ!」
「先に失礼なことを仰ったのはあなたでしょう!?」
「ぐ……」

 俺が言い返せないのをいいことに、彼女はくるりと振り返って彼女の父親に高らかに宣言した。

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