天才脳外科医は新妻に激しい独占欲を放ちたい
「私たちも改めるべきところは改めますから、ご要望があれば教えてください。あっ、でもこれ以上書類は増やさないでいただけると……」


 陽貴さんは顔の前で手を合わせて懇願している。


「脳外は、随分香月さんに頼っているらしいじゃないですか。気をつけないと愛想尽かされますよ?」


 後半を陽貴さんに耳打ちした総師長は、「それでは」と去っていく。私たちが夫婦だと知っているからこその言葉だ。


「そうなる前に言ってくれ。俺、頑張るからさ」


 悲痛の面持ちで訴えてくる陽貴さんがおかしい。
 ドクターはカルテ整理や書類の管理が苦手な人が多く、彼もそのうちのひとりなのだ。


「大丈夫」


 小声で伝えると、彼の笑顔が弾けた。



 その後、草野さんは退職したようだ。

 次の病院でまた同じことをしないでほしいとは思うが、私にどうにかできることでもない。

 彼の態度は、大学病院や野上総合だったから許されなかったわけではなく、どんな病院でも受け入れがたい。心を入れ替えるのを祈るしかなかった。
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