双生モラトリアム


ドクン、ドクンと心臓の鼓動が速くなる。
なぜ、立花先生はこんなに探ってくるんだろう?
樹との……妹の婚約者との関係なんて。赤の他人には関係無いはずなのに……。

とにかく、答えなくては。

だけど、肯定すれば私が樹と体の関係を認めたことになる。否定してもわざとらしいかもしれないけど……ひとまず答えるべきは、「NO」だ。

「あの……違います。本当に……生理不順で困っていたんです!だから……必要で……」
「…………」

私が話してるのに、隣の立花先生は黙り込んだまま。沈黙が気になってそれ以上なにも言えずにいると、ふうっとため息が聞こえた。

「……すみません。患者さんのプライバシーにずかずかと」
「……いえ」

あっさり謝罪されて、追及されるかと身構えていた緊張がとけていく。

「でも、良かった。あの男性と関係無いなら……僕もお願いがしやすい」
「お願い……ですか?」
「はい」

何だろう?そう言えば、恩返しを期待してますって言ってたし。樹との仲を探ったのも関係ある?

「なんでしょう?私にできることなら……」
「もちろん、春日さんにとって簡単なことです」

簡単なこと?

「たまに、ご飯を作りに来てほしいんですよ」
「ご飯……ですか」
「はい。毎日毎日コンビニ飯ばかりで飽きてきたんで……食費は渡しますから」

確かに。お医者さんは忙しそうだし、ひとり暮しなら家事はあと回しになりがちだろうな。

「はい、私でよければ……でも、恋人さんは……」

もし彼女がいるなら、受ける訳にはいかないけど。「あ~彼女いない歴28年なんで……」とカミングアウトさせてしまって気まずくなったけど。

なんでだろう?
立花先生に恋人がいないと知って、ホッとした自分がいたことが不思議だった。
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