双生モラトリアム

思いきって告げたのに、樹から何の反応もなく……その沈黙が怖くなって、逃げようと思った。

どうにか彼の横をすり抜けて、ドアノブに手をかける。

「……わ、私……買い物に……行かなきゃ……」

手が震えて、ドアがうまく開けられない。ようやく開いた、と思った瞬間に肩を掴まれ、体を反転させられた。

背中がドアにぶつかり、大きな音が響く。

また、口を大きな手で塞がれた。

全身を樹の大きな身体で押し付けられ、もがいても抜け出せない。

「勝手に決めるな……唯、おまえに選択肢なんて初めからないんだよ!」

初めて、見た。
樹の、心底怒った表情(かお)を。

それは、何があっても決して本気で怒らなかった彼が初めて感情的になった瞬間。

あまりに恐ろしくてガタガタ震える私も、きっと血の気がひいた顔をしていたに違いない。

「……あの男か?」
「……?」
「隣の男に、ヤらせたのか!?」

(……立花先生?違う……!!あの人はただ親切にしてくれただけ)

違う、と言いたくて必死で首を横に振ろうとした。けれども、何を勘違いしたのか樹はハッと鼻を鳴らして怒気を強めた。

「……庇うくらい、ヤツが良かったか?」
(違う……!!)

息苦しさも悔しさもあり、ぽろりと涙が勝手にこぼれた。それを見た樹は急に私の服に手をかけて、あろうことかビリビリに破り裂いた。

「……教えてやらなきゃ、いけないようだな。おまえが誰のモノか、を」

「……!!」

不穏な気配に、必死に逃げようと抵抗をしたけれど……完全に頭に血が上った樹には、逆に煽るようになってしまって。

薄いドアひとつ隔てただけの場所で、樹は私を乱暴に抱いた。
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