御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


『ひなた? もう終わったの?』
「うん。東堂さん、あまり乗り気じゃなかったみたいで……そんなに話もしないで解散になった。ごめんね。昭文さんと付き合いのある方のご子息だったんでしょ?」

たしか、飲んでいてその流れで的なことを言っていたことを思い出しながら言うと、お母さんが笑う。

『ああ、大丈夫よ。親同士が酔った勢いで決めたような縁談だしね。元々会社同士の繋がりってわけではないから、その辺は気にしないで。昭文さんはちょっと残念がるかもしれないけど、適当に流しておけば忘れるでしょ』

「子ども扱いだね」と笑うと、『とにかく』と仕切り直される。

『もともと勝手な話だったんだから、こっちのことは気にしないで。ひなたの気持ちがついてこないなら頑張る必要なんかないしね。じゃあ、東堂さん側から縁談について断りの連絡があったら受けておくわね』
「うん。ごめんね」
『だから、気にしなくていいって言ってるでしょ』

最後呆れたような笑みを含んだ声で言った母にうなずいて、通話を切った。
ソファに深く腰掛け背中を背もたれに預ける。そのまま天井を仰ぎ……さっきまでのことに思いを馳せた。

準備にかけた時間の十分の一……百分の一くらいで終わったと思うと、少し笑ってしまう。
本番よりも準備期間が楽しいものだとはよく言ったものだ。でも、中学の修学旅行も高校の文化祭も、準備期間だけじゃなくて本番当日だってとても楽しかったから……今回がイレギュラーだっただけかもしれない。

まぁ、こういうこともあるんだろう。


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