御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「まぁ……ハズレではないかな。とりあえず、晃成が付き合ってるっていう女を見ておきたかったっていうのと……気を付けてって警告をしておきたかっただけ」

最後だけ慎重な口調で言われ、不思議に思う。
彩佳さんは繰り返し私に〝自衛して〟〝気を付けて〟と言うけれど、東堂さんと付き合うことがそんなに物理的な危険を伴うとは思えない。

今のところの被害と言えば脅迫状くらいだし……と考え、そういえばと思い出す。
彩佳さんは、脅迫状について肯定も否定もしなかった。もっと言えば、脅迫状のことを言っても驚いた様子も見せなかった。

……ってことは、元から脅迫状の存在を知っていた?

だけど、こんな風に今、目の前に現れて堂々と意見できる人がわざわざ手紙なんかで牽制するとも思えないし……。

頭の中がぐるぐるとし出し、考えがまとまらなくなる。こんな精神状態で考え続けてもいい答えが出ないのはわかるので、ひとつ深呼吸して気持ちを切り替えた。

「わかりました。十分気を付けます。ご忠告ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げる。
顔を上げると、彩佳さんがわけがわからなそうな表情で私を見ていた。

「自分で言うのもあれだけど……この状況でお礼を言うなんて、あなた、変わってるって言われない?」
「え?」
「まぁ、いいわ。じゃあ……くれぐれも用心してね」

最後まで私の警戒心を高める言葉を告げたあと、彩佳さんは背中を向けた。


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