御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない

それを前回の出張で知っているからこそ、明日からの出張には寂しさを感じた。
だからといって、そんな気持ちを伝えるつもりはないので、笑顔を作って見上げた。

「気を付けて行ってきてくださいね」

東堂さんは、ふっと表情を緩めてから、シフトレバーの前のスペースに置いてあったキーケースを手に取り私に差し出した。

「これ、ひなたに預けておく」

お気に入りで手放せないと話していたキーケースを渡され驚く。
中には鍵もついたままだ。

「え、でもこれ、部屋の鍵ですよね? 私に預けたら入れないんじゃ……」
「スペアをがあるから問題ない」

微笑む東堂さんをしばらく見てから、手の中のキーケースに視線を落とす。

スペアキーがあるなら、生活に不自由はしないのかもしれない。
でも、これは部屋の鍵だ。

こんな貴重品を私に預けるのは東堂さんだって落ち着かないだろうと思い「でも、さすがに……」と言いかけたところで、再度キスされる。

私の言葉を封じるように、軽くチュッと触れて離れた東堂さんが目を細める。

「俺がひなたに持ってて欲しいから。帰国したら、それ持って部屋まできて欲しい」

甘さが含まれた声で言われてしまえば、顔がどんどん熱くなるのを感じながらもうなずくほかなかった。

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