御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


余裕……ではなかったと思う。だって、あの後されたキスは明らかに強引だったし、想いを押し付けるような、ちょっと驚いてしまうほどのものだった。

キスの経験は東堂さんとしかないから、きちんとした判断はできないけれど……でも、独占欲のようなものを感じたのはたしかだ。

あの時の熱のこもった眼差しを思い出すだけで顔が熱くなるので困っていると、渡さんが言う。

「まぁ、余裕ってことはないにしてもさ、なんかこう、やることなすこと俺の気に障るんだよな。出張先もスウェーデンとか言っててカッコいいから気にくわない」
「……え?」

どうして渡さんが東堂さんの海外出張を知っているんだろう。
あの話題は、渡さんをマンションまで送り届けたあとでされたものなのに。

でも、聞き返そうとしたところで君島先輩が戻ってきたので、タイミングを逃した疑問は声にならなかった。

「渡くん、また営業部抜けて来てるの? そろそろ先輩に絞られるんじゃない?」
「いや、俺、先輩には可愛がられるタイプなんで」
「まぁ、どうでもいいけど。それより、飲みの誘いにきたの?」

渡さんとは、なんだかんだで週に一度は三人で飲みに行っている。
今まで大体、水曜日か金曜日だったから君島先輩も聞いたのだろうけれど、渡さんは「あー、今日はちょっと」と苦笑いを浮かべた。

その顔がなんだか焦っている気がしてじっと見ていると、渡さんが続ける。


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