御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


髪はハーフアップにしてポニーフックを止めた。トップに細いベロア生地のリボンがあしらわれているデザインは子供っぽくも見られすぎないし、主張もしすぎない……はず。

これだけのレストランとなると、やはりドレスコードはあるだろうし、東堂さんに恥をかかせたくはない。
お店の前で待っていてくれた東堂さんは私の格好を見ても何も言わなかった。店員さんの視線もおかしなくらい私の服で止まったりもしなかったので、きっとギリギリセーフだろう。

心の中で君島先輩に感謝を繰り返しながら、案内された席に腰を下ろした。

一面のガラスの前に黒い丸テーブルが置いてあり、それを半円型のソファが囲っている。わかりやすく言えば、遊園地のコーヒーカップを半分に切ったような造りの席だった。

腰を下ろすと目の前にガラス越しの夜景が楽しめる位置になっていて、視線を上げた途端「うわぁ……綺麗ですね」と独り言のような言葉がもれていた。

十九時という時間帯もあってなのか、街はそこら中明かりで溢れ眩しいほど。そのせいで、藍色の空は、地上に近づくにつれてやや明るくなっているほどだ。

思わずため息が出るような夜景を前に、ただただ感激していて、そのうちに聞こえている音楽の違和感に気付く。
視線を移すと、カウンター席の横にあるスペースに置いてあるピアノを、恐らくプロだと思われる女性が弾いていた。

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