御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
スカーフを巻きながらの推理に、なるほどと納得する。
君島先輩の言う通りだ。
あの飲み会は突発的なものだった。そもそも、飲み会自体を知っていたのも、参加した先輩と渡さん、東堂さん、そして私だけだ。
退社したときから付けられていたと考えるのが自然だ。
「誰なんでしょう……」
一番の疑問が自然と声になっていた。
〝別れろ〟と言っているからには、たぶん、東堂さんの周りの人なんだろうけれど、そもそも東堂さんに関係する人を誰ひとり知らないため、推測もできない。
〝私のことを気に入らない誰か〟という点以外なにもわからない。
「あまりに家庭が厳しかったりしたら、付き合いをよく思わない家族が……ってこともありそうだけど、そもそもが親の決めたお見合いで出逢ってるし、それはないしね」
着替えを終え、ロッカーを閉めた先輩が続ける。
「普通に考えたら、東堂さんがらみの女かなって思うけど。元カノとかだけじゃなくて、あれだけの立場があって見た目もいいってなれば、一方的に想いを寄せる危ないタイプの女もいそうだし。ストーカーとか」
「ストーカー……」と呟きながら、金曜日の飲み会でのことを思い出していた。
『ちょうど身近に〝近づいてくる女はみんな財産目当てだ〟みたいに騒ぐやつがいて、そういう人間も実際にいたから、俺も割り切った関係しか持たなかった』
財産目的に近づいてきた女性は、実際にいたって話していた。
あの時は語られることが衝撃的で、そして悲しくて、口を挟む気にもなれずに聞き流してしまったけれど、東堂さんの横顔は曇っていた気がする。
もしかしたら、嫌な目に遭ったことがあるのかもしれない。