御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


夜、歩道を並んで歩いている東堂さんと私の姿を映した写真。
服装や場所から、金曜日の飲み会後の帰り道だと分かった。君島先輩や渡さんとお店の前で別れたあと、東堂さんはタクシーで私をマンションまで送ってくれた。

この写真は、タクシーを止めるまでのわずかな時間に撮られたものだ。

「別れろって……誰からなんだろう」

差出人も、差出人の動機も、その本気度も、なにもわからない。
けれど、ただ見慣れたフォントで規則正しく印字された文字が不気味だった。



「別れろって言いきってるところが怖いよね。こういう悪戯って〝別れなかったらナントカする~〟みたいに脅すのが普通かと思ってたけど……なんか不気味ね」

私がロッカー前で呆然としていると、君島先輩が出社してきた。
そして、立ち尽くしている私の手元を不思議そうに覗き込んだ先輩の顔色が見る見る変わっていき……今に至る。

八時十分。ブラウスに袖を通しながらうなずく。

「こんな写真があるってことは、飲み会の最中もお店の前で見張ってたんでしょうか」
「まぁ、そうなるよね。でも、あの飲み会って計画してたわけじゃないのに。東堂さんが来たのだって完全なイレギュラーだったわけだし、予測できないよ。こんな手紙をよこすくらいだから元々春野ちゃんをつけてて、たまたま東堂さんが来たからツーショットが撮れた……って考えるのが一番自然なのかな」

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