能力を失った聖女は用済みですか?
心のなかで労いつつ、仕事の邪魔をしないようにと静かに部屋を出る。
そして振り返った途端、シスルに行く手を塞がれて、私は飛び上がって驚いた。

「ひいっ!……な、何してるんですかっ!」

すると彼は訳知り顔で言った。

「ふっ。カイエン様の心配性にも困ったものですね」

「……え?いえ、私の無鉄砲が原因ですから」

「それだけではないですよ?」

「はい?」

無鉄砲が原因じゃない?
てっきり「独断専行するな」と釘を刺されたのだと思っていたけど。

「ルナさんはカイエン様の理想の女性ですからね。出来るだけ側から離れたくないのですよ」

「……意味が良くわかりませんが……」

理想の女性って……どういうこと!?
そう叫び倒したいのを堪え、至極冷静に対処した自分を誉めたい。

「あれ?言ってなかったですか?カイエン様はアッサラームの姉上様に育てられたも同然でとても尊敬しているのです。そのため、理想の女性は自分より年上で包容力のある人なのだそうですよ」

シスルは意気揚々と言い切った。
そんなこと、あなたから一度も聞いたことないですが!?
ていうか、カイエン超シスコン!?

「えっと、でも年上で包容力がある人なんて、この世界のどこにでもいますから……私を理想というのもどうかと」

「いいえ。カイエン様はルナさんのことを真剣に想っています……ゆえに……」

笑顔だったシスルは、言葉の最後で真剣な表情になった。
そして、一拍置いた後、言った。

「どうか、無茶をしないようにお願いします。また、シャンバラの王妃として、恥ずかしくない振る舞いを心掛けて下さい」

あ、念押しだったのね……。
理想の女性云々は前フリで、結局カイエンと同じく警告したかっただけ!?
ただそれも、私の無謀な行動が引き起こしたものだから仕方ない。

「気を付けます」

真摯に答えると、シスルは満足そうに去っていった。

その後、私は仕事を片付け、自室に帰り、早めに床についた。
しかし、一日に二回も諭されたことと、カイエンの理想の女性像の話が頭から離れず、暫く悶々としていたのである。
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