能力を失った聖女は用済みですか?
補給部隊はラグンを出、二つの集落に立ち寄った後、予定通り夕刻にレグラザードへと帰還した。
乾いた風と土埃の中に建つ王都レグラザードは、アラビアンナイトの世界のように幻想的である。
立ち並ぶ民家は真っ白で美しく、壁は独創的なタイルで装飾されていた。
また扉には、緑色や蒼色の石が嵌め込まれ、見ているだけでも楽しくなる造りだ。
町中にはたくさんの火が灯され、補給部隊の行く手を照らし、すれ違う人々は先頭を行くカイエンに親しげに声をかける。
王様に普通に声をかけるシャンバラの風習は、ロランとは全く違っていた。
ロランで王に直接声をかけようもんなら、不敬罪で牢に入れられてしまう。

「なんだか、皆さん家族みたいですね」

私は馬上でカイエンに尋ねた。

「家族……うん。その通りだ。オレは家族のほとんどを亡くしたが、今ではシャンバラの皆が家族のようなものだ」

「大家族っていいですねー」

「ああ。ルナの家族は?」

「いません。両親は私が小さい頃亡くなりました」

こちらの世界に来て、帰りたいと思わなかったのは家族がいないせいでもあった。
悲しむ者はいない。
悲しくもない。
だから、この世界を受け入れるのも早かった。

「……そうだったのか。思い出させたのなら悪かった」

カイエンは申し訳なさそうに言った。

「え?いえ、大丈夫ですよ?かなり前のことなので、自分の中で整理もついてます」

「……ルナ、これからは、シャンバラの皆がお前の家族だからな」

家族がいない、と言ったことに気を使ったのか、カイエンが言った。
悲しそうに言ったつもりはない。
でも、素直に嬉しかった。
どこか他人行儀なロランの神官たちには、五年経っても馴染むことは出来なかったし、市街地に降りることも許されなかった。
馬上から見るシャンバラの人達は、生活が苦しいのにも関わらず、皆笑っている。
これは心が豊かな証拠だ。

「家族……そうですね。とても楽しみです」

私は本心で呟いた。
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