能力を失った聖女は用済みですか?
「シータは、精霊を信じてないの?」

「うん。シャンバラの皆は目に見えないモノは信じないの。そういう民族だ……って、死んだお父さんが言ってた」

「な……」

まさかの無神論国家!?
そういえばカイエンも「別に聖女の力を信じてる訳じゃない」って言ってたわ。
つまり、シャンバラは精霊の存在を信じていない。
身近に感じてないということだ。

「ルナねぇさまには、目に見えないモノが見えるの?」

シータはキョトンとしている。
……どう答えればいいのかな。
余計なことを言って、後で誰かに怒られるのは嫌だ。
でも……自分の大切な友達を否定されるのは……もっと嫌だ。

「シータ。世界には不思議なことがいっぱいあるんだよ?目に見えなくても、声は聞こえなくても、苗は生きてる。植物も生きてる。だからね、優しくされたら喜んで、もっと頑張ろうとするんだよ」

すると、シータは呆然と立ち尽くした。
私の言葉の意味がわからない、そんな感じに見えた。
やっぱり、幼い頃から染み込んだ思想は変えられないか。
そう考えていると、シータが苗に向かって突然声を発した。

「皆、大きくなるんですよ?いーっぱい大きくなって、とっても美味しくなるんですよ!」

「シータ……」

「うふふ。シータの声、聞こえてるかなぁ」

「もちろんよ!皆、どこの集落に行っても、大きく美味しくなるよ?」

私とシータの声に苗達が大きく揺れた。
温室の窓はまだ開けてないから、風で揺れるはずはない。
ひょっとすると……姿も見えなくて、声も聞こえないけど、精霊達は案外近くにいるのかもしれない。

「シータ。いっぱい話しかけてみようか?苗達が成長出来るように」

「うんっ!」

私とシータは、水差しを持ち、苗や植物達に水を撒いた。
貴重な水は一滴も無駄には出来ないので、丁寧に溢さぬように根本に注ぐ。
植物の生命力は、元々とても強く出来ている。
だから、この過酷な状況にもきっと耐えてくれるはずだ。
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