能力を失った聖女は用済みですか?
次の日の早朝。

第二部隊のイズール達や、早番の使用人達に見送られ、私と第一部隊はシャンバラの集落に向かって出発した。

朝靄の中のレグラザードの町は、幻想的で美しい。
まだ誰一人として活動していない町の中は、昼間とはうってかわって静けさが支配する。
その新鮮な空気を肺一杯に満たすと、寝惚けた頭がスッキリ覚醒した。

「まずは近場から行く。一番遠くの集落に着くのは明日になるだろう」

馬上の後ろでカイエンが言った。
今回もまた、私は彼の馬に乗っている。
本当はディアーハに乗るのが一番快適なんだけど、それは絶対に出来ない。

「一番遠いというと……アルバーダですね」

「そうだ。ロランとの国境付近、ルナが居たところだったな?」

そう言えば……そういう設定だった。
最初会った時、苦し紛れにアルバーダから来たことにしたんだっけ。
あの時はなんとか押しきったけど、今回は乗りきれるだろうか?
アルバーダまで行って、いろいろ詮索されたら、私のホラなんてすぐにバレる。

「アルバーダでは誰と住んでいた?親戚の世話になっていたと言ったな」

カイエンが突然、雪崩の如く質問をしてきた。

「えっ?えーと……えー、っとですねぇ……」

そんなところまで考えてない!
いや、考えたところで、アルバーダに行けば全部バレ……。
あっ、アルバーダと言えばハシムさんがいるじゃない?
申し訳ないけど、ハシムさんを使わせてもらおう。

「と、遠縁のおじいさんがいまして……そこで、暫くお世話に」

遠縁であることを除けば、あながち間違ってもない。
アルバーダに着いてからごまかす手段を探そう。

「ふぅん。そうか」

カイエンはやけにアッサリ引いた。
さっきは畳み掛けるように質問してきたのに、ただの興味だったのかな?
それなら驚かせないで下さいよ、全く……。
内心で悪態をつきつつ、私はピンチを凌いで肩の力を抜いた。
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