ラッキーセブンより春がいい
青春にはいつも誰かがいる
「好きです、初めて見たときから気になってました」
───歌番組のリハーサル。楽屋から出たトイレへ続く人通りのない通路脇。
突然肩をたたかれたと思えば、テレビでよく見かけたことのある可愛らしい女の子が立っていた。と、状況を理解する前に言葉を紡がれた。
「……え、」
「えっと、いきなりで、ごめんなさい」
「人違いじゃないですか?」
「え! 違います! ……"はるとうたたね"の、ドラム、ですよね?」
はるとうたたね───自分が所属しているバンド名。パートはドラム。合ってる。間違ってない。
だけど俺は、この子と関わった記憶が一切ない。というか、今初めて話した。テレビではよく見かけるけれど。
……多分、今売り出し中の大人数アイドルグループのひとりだろう。顔を知っているということは、人気はトップの方。踊っているのは最前列。
「そうですけど、すみません、話したの、初めて、ですよね?」
「えっと、そうです、」
「……アイドルは恋愛禁止じゃなかった?」
「そう、なんですけど、」
「ていうか、こんなところで話してたら週刊誌とられますよ、気をつけた方がいい」
「あ、あの、でも!」
「……はい」
「好きなんです、高沢 浩平さん、あなたに会いたくて、芸能界に入ったんです……!」