ラッキーセブンより春がいい
◇
「はあ? それで、何も言わずに逃げ出したの?!」
本番終了後の楽屋にて。
リハーサル前にあったさっきの出来事を"はるとうたたね"のメンバーに話すと、想像以上に驚かれ、同時に罵られた。
「あっりえない、相手はあの平石 結衣ちゃんデショ? コーへー、あんた日本中の男に刺されるぞ」
ベーシストの怜が信じられないといった表情でこちらを指さす。女子なんだからもう少しおしとやかな話し方をしたらどうなんだ、と出会ったときから思っているけれど変わらない。それはそれで怜の個性でもある。
───ヒライシ ユイ。通称ユイユイ、というらしい。最近売り出し中の50人組アイドルグループで、トップ7にランクインする人気アイドルだ。最近は女優業にも励んでいるとかいないとか。
「……いや、喋ったことないし」
「関係ナイだろーが、せっかくのチャンス逃してバッカだなー」
人のことをとやかく言う前に、怜はその男口調を治したら、とは口に出さないでおく。
「なあ領、どう思う? ありえねーよなあー」
「えー? うーん、どーなのかねー、駆け出しバンドの俺らと売り出し中アイドルのあの子じゃ、週刊誌にすぐとられちゃいそうだけど」
まあ、いいんじゃない? 浩平次第でしょ、と。学生時代、というより出会った頃から変わらない笑顔でギターの高城 領が言う。