ラッキーセブンより春がいい





「はあ? それで、何も言わずに逃げ出したの?!」



本番終了後の楽屋にて。

リハーサル前にあったさっきの出来事を"はるとうたたね"のメンバーに話すと、想像以上に驚かれ、同時に罵られた。



「あっりえない、相手はあの平石 結衣(ヒライシ ユイ)ちゃんデショ? コーへー、あんた日本中の男に刺されるぞ」



ベーシストの怜が信じられないといった表情でこちらを指さす。女子なんだからもう少しおしとやかな話し方をしたらどうなんだ、と出会ったときから思っているけれど変わらない。それはそれで怜の個性でもある。


───ヒライシ ユイ。通称ユイユイ、というらしい。最近売り出し中の50人組アイドルグループで、トップ7にランクインする人気アイドルだ。最近は女優業にも励んでいるとかいないとか。



「……いや、喋ったことないし」

「関係ナイだろーが、せっかくのチャンス逃してバッカだなー」



人のことをとやかく言う前に、怜はその男口調を治したら、とは口に出さないでおく。



「なあ領、どう思う? ありえねーよなあー」

「えー? うーん、どーなのかねー、駆け出しバンドの俺らと売り出し中アイドルのあの子じゃ、週刊誌にすぐとられちゃいそうだけど」



まあ、いいんじゃない? 浩平次第でしょ、と。学生時代、というより出会った頃から変わらない笑顔でギターの高城 領(タカシロ リョウ)が言う。



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