アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
 足に巻き付くスカートに転びそうになりながらも、オルキデアの元にやってきたアリーシャは、「お出迎え出来ず、すみません」と謝ってくる。

「気にするな。たった今、戻って来たところだからな」
「ただいま戻りました。アリーシャさん」
「セシリアさんもお帰りなさい。二人とも無事で良かったです」

 微笑むアリーシャとオルキデアたちに、「では、私たちはそろそろ」とコーンウォール夫妻がいとまを告げたのだった。

「一通りは揃えましたが、何か足りないものがあれば遠慮なく言って下さいね」
「ああ。そうだ。忘れずにこれを渡さなくては」

 オルキデアが懐から現金が入った封筒を取り出し、「これは今日の分の報酬で……」と言いかけるが、夫婦は「いいから」と固辞したのだった。

「だが……」
「いいんですよ。あのオーキッド坊ちゃんのお嫁さんに会えたんですもの。それも素敵なお嫁さんに。ねぇ、アンタ?」

 マルテに同意を求められて、「ああ」とメイソンも頷く。

「まさか、生きている内にセシリアの花婿だけじゃなくて、オーキッド坊っちゃんの花嫁にも会えるとは思わなかった」
「メイソン氏……」
「いい娘じゃないか。……大切にするんだぞ」

「いいな」と、念を押すメイソンに、オルキデアは頷く。
 次いで、メイソンが視線をオルキデアの隣に移すと、恥ずかしそうにアリーシャがそっと寄り添ったのだった。

「アリーシャさん、植えて欲しい花があれば言ってくれ」
「ありがとうございました。メイソン氏、マルテ」
「ありがとうございました」

 そうして、夫婦は手を振るアリーシャとセシリアに見送られながら車に乗り込むと、メイソンの運転で屋敷から去って行ったのだった。

 手を下ろしたセシリアは、「クシャ様、私たちもそろそろ」とクシャースラを促す。

「そうだな。オルキデア、おれたちも帰るよ」
「夕食は食べていかないのか?」
「ようやく、夫婦水入らずになれるんだ。邪魔する訳にはいかないだろう」

「なあ」とクシャースラは傍らの妻に尋ねると、「そうですね」と返される。

「オーキッド様。借りていたアリーシャさんのお洋服と、ご用意して頂いたウィッグをお返ししますね」

 セシリアからカバンを受け取るオルキデアを見ていたアリーシャが、「あの!」と急に慌て出す。

「私、セシリアさんのドレスと帽子を部屋に置いているんです。お返しするので、今、持って来ます!」
「ああ。いいんです。アリーシャさん!」
 屋敷に入ろうとするアリーシャをセシリアは止める。

「あの服と帽子はアリーシャさんに差し上げます」
「でも、いいんですか……?」
「ええ。最初に服を用意した時は時間がなくて、ああいうお出掛け用のおしゃれな服と帽子を用意出来なかったので……。後から、クシャ様に持って行ってもらえば良かったって、ずっと後悔していたんです」

 最初にオルキデアがクシャースラを通して、アリーシャの服を用意するようにセシリアにお願いした時、セシリアは下着や普段着の用意だけで頭がいっぱいになっていた。ーーそもそも、アリーシャの正確な洋服のサイズがわからなかったというのもある。
 化粧品や女性用品までは頭が回ったが、それ以外は全く気が回らなかったらしい。
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