アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
五階建ての百貨店に入ると、煌びやかなエントランスに出迎えられる。
初めて来たからか、繋いだ手ごと身体を寄せてくるアリーシャを連れて、二人はエスカレーターに乗ったのだった。
「これ、エスカレーターなんですね」
「エスカレーターも初めてだったか?」
「初めてではありませんが、こんなに綺麗ではなかったので」
アリーシャがまだ娼婦街に住んでいた頃、母からのお使いで、他の娼館に立ち入ったことがあるらしい。
高級な娼館にはエスカレーターもエレベーターもあったが、ギシギシといった音と錆と共に、今にも壊れそうなくらい年季が入っていたそうだ。
対して、ここのエスカレーターは新品同然で、綺麗に磨かれていた。
錆もなければ、メンテナンスが行き届いているのか、音もなく静かに稼働していた。
「綺麗なのは当然だ。この百貨店は王族や貴族の御用達でもあるのだからな」
「王族や貴族も買い物に来るんですか?」
「王族と、王族に近い身分の高い上級貴族は、自宅に呼びつけるらしいが、それ以外の貴族は直接ここに買いに来る。まぁ、中には王族や身分の高い貴族でも、自分で買い物するのが好きな奴もいるらしいが」
時折、クシャースラの部隊が警護するペルフェクト王家の第三王子は、よくお忍びでこの百貨店に来ているらしい。
ある日突然、「今日は百貨店に行く」と言い出すようで、クシャースラ自身は「付き合うのが大変」とよく愚痴を溢していた。
王子がお忍びで行く以上、クシャースラたち警護兵もお忍びとして一般買い物客に混ざらなければならない。
さすがに、王子を待たせる訳にはいかず、クシャースラたちはその準備を短時間で行わなければならなかった。
時間が掛かれば、自由奔放な第三王子は護衛もつけずに勝手に出かけてしまう。
そうなる前に、送迎の車から駐車場の用意、緊急時の脱出ルートまで確認するのは、たとえ優秀なクシャースラといえども、容易ではなかった。
それ以外にも、上級貴族の中には自分の足で店内を歩いて、自分でお金を支払って買い物するのが好きだという物好きがおり、そういった者がよく利用している。
「明らかに身なりが良く、後ろに使用人やメイドを引き連れて、さも自慢げに歩いている奴には近づくなよ。そういう奴は大体、上級貴族だ。それも傲慢で、面倒な」
「そうなんですね……」
苦笑するアリーシャに手を貸して、エスカレーターを乗り継ぐと五階に辿り着く。
端から端まで所狭しと店が並ぶ。煌びやかな衣料店から、植物なのか食べ物なのかよくわからない甘い香りのする雑貨屋まで。
そんな店内をアリーシャは目を輝かせて、見ていたのだった。
「先に俺の用事を済ませてもいいか?」
「構いませんが……。どのお店に行くんですか?」
「書店だ。この辺りでは一番品揃えがいいからな」
目的の書店は、左手の突き当たりに入っている。
他の店より三倍近く広い書店は、子供から大人まで多くの人たちで賑わっていた。
「ここにはペルフェクトで出版された本だけではなく、ハルモニア経由で輸入したハルモニア語やシュタルクヘルト語を始めとする他の言語の本も取り扱っているんだ」
「それでこんなに広くて、賑わっているんですね」
「君も本を見てくるといい。欲しい本があったら買おう」
「いいんですか?」
「屋敷にいて何もしないのも退屈だろう。ここなら君の母国語の本も取り扱っている。まとめて買おう」
アリーシャにはシュタルクヘルト語がわからない振りを続けてもらっている。
もしかしたら、アリーシャを不審に思った兵が、監視しているかもしれないと思ったからだった。
だが、馴染み深い母国語をわからない振りを続けるのも辛いだろう。
わかるものをわからない振りをして、それを長期間続けるというのも、意外とストレスが溜まるものだ。
それなら、せめて屋敷内だけでも、そのストレスから解放して上げたかった。
本なら、シュタルクヘルト語にも精通しているオルキデアが読む振りをしてまとめて購入すれば、怪しまれることはないだろう。
そう考えて、アリーシャに提案したのだった。
初めて来たからか、繋いだ手ごと身体を寄せてくるアリーシャを連れて、二人はエスカレーターに乗ったのだった。
「これ、エスカレーターなんですね」
「エスカレーターも初めてだったか?」
「初めてではありませんが、こんなに綺麗ではなかったので」
アリーシャがまだ娼婦街に住んでいた頃、母からのお使いで、他の娼館に立ち入ったことがあるらしい。
高級な娼館にはエスカレーターもエレベーターもあったが、ギシギシといった音と錆と共に、今にも壊れそうなくらい年季が入っていたそうだ。
対して、ここのエスカレーターは新品同然で、綺麗に磨かれていた。
錆もなければ、メンテナンスが行き届いているのか、音もなく静かに稼働していた。
「綺麗なのは当然だ。この百貨店は王族や貴族の御用達でもあるのだからな」
「王族や貴族も買い物に来るんですか?」
「王族と、王族に近い身分の高い上級貴族は、自宅に呼びつけるらしいが、それ以外の貴族は直接ここに買いに来る。まぁ、中には王族や身分の高い貴族でも、自分で買い物するのが好きな奴もいるらしいが」
時折、クシャースラの部隊が警護するペルフェクト王家の第三王子は、よくお忍びでこの百貨店に来ているらしい。
ある日突然、「今日は百貨店に行く」と言い出すようで、クシャースラ自身は「付き合うのが大変」とよく愚痴を溢していた。
王子がお忍びで行く以上、クシャースラたち警護兵もお忍びとして一般買い物客に混ざらなければならない。
さすがに、王子を待たせる訳にはいかず、クシャースラたちはその準備を短時間で行わなければならなかった。
時間が掛かれば、自由奔放な第三王子は護衛もつけずに勝手に出かけてしまう。
そうなる前に、送迎の車から駐車場の用意、緊急時の脱出ルートまで確認するのは、たとえ優秀なクシャースラといえども、容易ではなかった。
それ以外にも、上級貴族の中には自分の足で店内を歩いて、自分でお金を支払って買い物するのが好きだという物好きがおり、そういった者がよく利用している。
「明らかに身なりが良く、後ろに使用人やメイドを引き連れて、さも自慢げに歩いている奴には近づくなよ。そういう奴は大体、上級貴族だ。それも傲慢で、面倒な」
「そうなんですね……」
苦笑するアリーシャに手を貸して、エスカレーターを乗り継ぐと五階に辿り着く。
端から端まで所狭しと店が並ぶ。煌びやかな衣料店から、植物なのか食べ物なのかよくわからない甘い香りのする雑貨屋まで。
そんな店内をアリーシャは目を輝かせて、見ていたのだった。
「先に俺の用事を済ませてもいいか?」
「構いませんが……。どのお店に行くんですか?」
「書店だ。この辺りでは一番品揃えがいいからな」
目的の書店は、左手の突き当たりに入っている。
他の店より三倍近く広い書店は、子供から大人まで多くの人たちで賑わっていた。
「ここにはペルフェクトで出版された本だけではなく、ハルモニア経由で輸入したハルモニア語やシュタルクヘルト語を始めとする他の言語の本も取り扱っているんだ」
「それでこんなに広くて、賑わっているんですね」
「君も本を見てくるといい。欲しい本があったら買おう」
「いいんですか?」
「屋敷にいて何もしないのも退屈だろう。ここなら君の母国語の本も取り扱っている。まとめて買おう」
アリーシャにはシュタルクヘルト語がわからない振りを続けてもらっている。
もしかしたら、アリーシャを不審に思った兵が、監視しているかもしれないと思ったからだった。
だが、馴染み深い母国語をわからない振りを続けるのも辛いだろう。
わかるものをわからない振りをして、それを長期間続けるというのも、意外とストレスが溜まるものだ。
それなら、せめて屋敷内だけでも、そのストレスから解放して上げたかった。
本なら、シュタルクヘルト語にも精通しているオルキデアが読む振りをしてまとめて購入すれば、怪しまれることはないだろう。
そう考えて、アリーシャに提案したのだった。