アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「二人暮らしだろう。人手がいるんじゃないか」
「そうですが……。特に問題はありません」
「こっちは気にせず、看病に専念してくれ。祝いの品を置いたら帰るから」
「祝いの品を置いてって、一体何を……」

 そう言いながら、プロキオンの足元を見ると、何やら酒瓶らしきものが見えた。

「中将。これは……」
「うちの奥さんの実家では、祝いには酒を送るものだと聞いた。だが、お前の奥さんが酒が飲めないといけないと思って、食器やタオル類も持ってきたんだ」

 この間、アリーシャと一緒に行った百貨店の紙袋に入っていたのは、祝い用にラッピングが施された酒であった。
 アルフェラッツの足元にも同じ紙袋が幾つか置いてある事から、そっちに食器やタオルが入っているのだろう。

「こんなにはいただけません」
「気にするな。あのオルキデアがようやく最愛の人を見つけたんだ。自分のことのように嬉しいよ」

 どうやら、知らなかっただけで、よほど上官から将来について心配されていたらしい。
 更には、肩をバンバンと叩かれもして、「うっ」と言葉に詰まったのだった。

「……そんなに心配をかけていましたか?」
「女と寝たと聞く度にな。いいかげん、一夜以上の付き合いのできる女を見つけないかと、気を揉んでいた」

 親友と同じことを上官にまで言われて、何も言い返せなくなる。

「それは、すみません……」
「いいさ。それより、荷物を中に入れてもいいか。まだ車の中に残っているんだ」

 プロキオンは足元の紙袋を押し付ける様に渡してくると、車に引き返す。
 こっそり、自分の部下に近づくと、小声で尋ねる。

「どれくらい買ったんだ」
「後部座席が埋まるくらいには」

 何がいいのか分からなかったようです。とまで、報告をされて頭が痛くなる。
 うちの上官は、面倒見が良いので多くの部下たちから慕われているが、面倒見が過ぎるところがある。
 まさに、今回のように。

(お返しに困るから、何も言わなかったんだがな……)

 オルキデアの悩みの種が、また一つ増えたのだった。
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