アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
 二人を応接間に案内すると、アルフェラッツと一緒に車から荷運びを手伝う。

 アルフェラッツによると、車に乗っているものはプロキオンが買ったもの以外に、オルキデアの結婚を知った他の兵から預かったものもあるらしい。
 実際に、車にはアルフェラッツが買った高級ブランデーケーキと、ラカイユから預かった紫色を基調としたフラワーブーケもあったのだった。

「疲れたな」
「こんなに買うからですよ」

 最後の荷物を運び終えたプロキオンは、応接間のソファーに座るとネクタイを緩める。
 呆れ顔のオルキデアだったが、自分たちの為に時間を割いてくれた上官と、そんな上官に付き合ってくれた部下に感謝をしていた。

「ラナンキュラス少将」
「どうした?」

 厨房まで冷蔵品や冷凍品を持って行ってくれていたアルフェラッツは、懐に手を入れると封筒を取り出す。

「こちらを受け取って下さい」

 受け取った封筒を確認すると、中からは現金が出て来たのだった。

「プロキオン中将を始め、有志から預かってきました。と言っても、ほぼプロキオン中将からですが」

 振り返ると、したり顔の中将がそこにいた。

「受け取れません。これだけ祝いの品を頂いた上に、現金まで」

 アルフェラッツに突き返すが、それを横から取ったプロキオンがオルキデアのスーツのポケットに入れてくる。

「いいから、受け取っておけ」
「ですが……」
「気になるなら、これから仕事で返せばいい。あの、情がないだの、冷たいだの、言われていたラナンキュラス少将も部下に慕われていたんだな」

 どうやら、プロキオンもオルキデアが他の兵から陰でどう言われているのか知っていたらしい。
 これまで、オルキデア自身は気にしていなかったが、もしかしたら上官は気にしていたのだろうか。

「そうですね……」

 小声で「ありがとうございます」と言うと、胸の中がじんわりと温かくなる。
 得意げに笑ったプロキオンは、「さて」と話題を変える。

「こっちを手伝ってくれたが、休んでいるんだろう、奥さん。側にいなくていいのか?」
「それは……」
「薬や食料など必要なものがあるなら買いに行ってくるぞ。さすがに、奥さんが心配で出掛けられないだろう」

 荷運びをしている内に、アリーシャのことをすっかり忘れていた。
 どうやったら、プロキオンに会わせずにすむのだろうか。

「買い物は大丈夫です。さすがに、上官を遣いに出すわけにはいかないので」
「気にするな、いつも俺の遣いに行ってもらってるからたまには逆もいいだろう」
「遣いって、あれは仕事なので……」

 このまま話していても埒が開かないと思っていると、コンコンと扉が軽くノックされる。
 近くにいたアルフェラッツが扉を開けると、部屋に入ってきたのは、噂をしていた人物だった。

「失礼します。お飲み物をお持ちしました」

 オルキデアは片手で顔を覆った。
 扉の向こう側には、湯気が立つカップを乗せたトレーを持ち、笑みを浮かべる仮初めの妻の姿があったのだった。
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