アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「喜んでいただけたのなら、嬉しい限りです」
「ありがとうございました。今度はお花の手入れについて教えて下さい」
「勿論です」

 そんな二人の元に、花束を受け取って、支払いを済ませたオルキデアが近づいたのだった。

「そろそろ行くぞ」
「はい。それでは、これで失礼します」

 アリーシャが頭を下げると、「お祭りにも来て下さいね」とセシリアが店先まで見送ってくれたのだった。

 車に乗り込むと、助手席に座ったアリーシャに花束を預ける。
 見送りに出て来てくれたセシリアに、片手を挙げると、車を走らせて花屋を後にしたのだった。

「このテープ……」
「どうした?」
「オルキデア様からいただいたカーネーションの花束にも、同じものが使われていました」

 先日、アリーシャに結婚を申し込んだ時に渡したカーネーションの花束。
 今はアリーシャが毎日手入れをして、大切そうに玄関に飾られていた。

「同じ店で買ったものだからな」

 花を束ねている包装紙には、花屋の店名が書かれた特注のテープが使われていた。
 一瞬だけ花束を見ると、すぐに運転に戻る。

 アリーシャの気持ちに答えると決めたものの、手ぶらでいいのか迷ったオルキデアは、どうしたらいいかを親友に相談した。
 クシャースラからセシリアに告白した際の話を聞き、アリーシャに花を渡そうと決めたところまでは良かった。
 しかし、どの花を買ったらいいのかわからず、それならと、花に詳しくて、何より相談しやすい、セシリアに尋ねたのだった。

 セシリアが花屋で働いている時間帯は、セシリアが屋敷にプリンを届けに来た時、借りていたショールをアリーシャが部屋に取りに戻っている間に聞いていた。
 その後、花屋に向かったオルキデアは、クシャースラに相談したのと同じ内容を、セシリアにも話した。
 花にはそれぞれ花言葉があると、セシリアに教えてもらうと、その中からオレンジのカーネーションを選んで購入したのだった。

「待たせておいて、何もないのも悪いだろう」
「返事を聞けるなら、気を遣わなくて良かったのに……。でも、ありがとうございます。直接、花束を貰ったのは初めてだったので、とても嬉しくて……」

 恥ずかしそうに笑うアリーシャに、胸が温かくなる。

(花にしておいて良かった)

 まさか、花と花を模った高級肉のどちらにしようか迷ったとは言えなかった。
 アリーシャならどちらも喜びそうだが、セシリアに諭されなければ高級肉を買いそうだった。

「目的地は遠いんですか?」
「いや、そう遠くはない。もう少ししたら着くからな」

 やがて、車は王都の端にある小高い山に着いたのだった。
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