アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
 捕虜とはいえ、赤の他人であるオルキデアの隣の部屋でよく寝ていたな。と改めて思う。

 確かに、出会ったばかりの頃に「二人きりの時は気楽にしていい」と言ったが、まさか本当に寛いだ様子を見せるとは思わなかった。
 肩の力を抜いていい、緊張しなくていい、という意味で言ったのだが……。

 もう少し、アリーシャには危機感を持って欲しい。結婚した以上は、尚の事。

「俺が自我を抑えられなくて、襲っていたらどうするつもりだったんだ?」
「お、オルキデア様は、そんなことをしないって、信じていたので!」
「また嬉しいことを言ってくれたな。どれ、褒美をやろう。今度はどこがいい?
 頬か、首筋か、うなじか、それともーー」
「もう……。もう少し、人目を気にして下さい!」
「誰もいないだろう」
「故人が見ています!」

 そんなことを話しながら、駐車場に到着すると車に乗り込む。

「ご褒美って程じゃないんですが……。セシリアさんがお祭りの用意をしていましたよね」
「来週だったな。確か」

 車のエンジンをかけると、ゆっくり車を出す。

「それに一緒に行きたいんですが……」
「わかってる。約束通り、一緒に行くぞ。
 あらかじめ休暇を申請していたからか、その日は一日空いている」

 もしかしたら、新婚の二人に気を利かせて、プロキオンが仕事から外してくれたのかもしれないが、それは上官本人に聞いてみないとわからない。

「本当ですか! 楽しみです……」

 本当に楽しみにしているように、アリーシャは弾んだように微笑む。

「祭りを楽しむ為にも、風邪を引かないようにしないとな。ということで、コーヒーでも飲んで帰るか」
「私はホットチョコレートがいいです!」
「紅茶じゃないのか。珍しい」
「たまには、甘い物が飲みたい気分なんです!」

 駐車場から道路に出て、頭の中で帰り道の地図を思い描きながら口を開く。

「それなら、コーヒーとホットチョコレートを提供している店に寄って帰るか」
「あの、ケーキを一緒に注文してもいいですか……?」
「元から、そのつもりで言ってるから安心しろ」

 恥ずかしそうにするアリーシャに、オルキデアは微笑を浮かべたのだった。

 信号待ちで停まると、「アリーシャ」と声を掛ける。

「お前は幸せか。俺と一緒に居て」
「当たり前じゃないですか。好きな人と一緒に居られるんですから」
「そうか」

 打てば響くように返されて、オルキデアは満足する。
 腕を伸ばすと、アリーシャの頭を撫で、次いで柔肌の頬を愛撫した。

 いつの間にか、胸の中の息苦しさは消えて、温かい熱が広がっていた。
 信号が変わると、また車を走らせたのだった。
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